2006年03月15日

06.アーシェス

 乾いた風と剥き出しの大地が支配する戦乱の国。それが我が母国、ソドム王国だ。ここ何年も南の大国統一ラオスとの戦争が続き、大地も砂漠化が侵攻している。その中でのカイザーの反乱は決定的だった。
 かって、この国は肥沃な草原が広がる国だったという。しかし戦乱を続ける人間に神の怒りに触れたのか、過っての草原は今はもうない。私が子供だった頃には王都の周辺はまだあちらこちらに森があったが、それも今は痩せた草原がまばらに残るのみである。
 私の名前はアーシェス。ソドム王国の王国騎士団の騎士隊長だ。隣には私の副官であるトロントと、我が国に協力してくれる大地の妖精族であるドワーフのセルフがいる。
「ふむ・・・難儀な事だな。人間共の争いにわしらドワーフまで巻き込むとは・・・」
 セルフはめんどくさそうに言い放った。私自身もそう思う。このまま戦争を続けては我が国は早晩国土の全てが砂漠に支配されるだろう。そして脅威は南だけでなくなった。我が国の北側で伝説の魔導士カイザーが反乱を起こしたからだ。その宣戦布告は、カイザーの落としたローラ王国だけでなく、ローレシア同盟4国全てである。勿論多少の軍団が控えているとは言え、同盟4国を同時に相手にするなど正気の沙汰では考えられない。もちろんそれが、普通の人間ならばで話である。しかし相手は伝説とまで呼称される魔導士である。充分戦いにはなるだろう。実際早く沈静化を目指すなら4国で軍隊を率いて一気にカイザーを叩きたいところだ。しかし犠牲はどれほどになるかはわからない。そこで王たちは各国から優れたものを集め小数精鋭で魔導士カイザーを倒す方法を選択したわけだが、それなら私たち人間だけで決着をつけるべきだと思う。人間の不始末に、この大地の妖精族まで借り出す必要があるのだろうか・・・。
「アーシェ、お前が気にすることはないぞ。わしが言ったのは王に対してじゃ」
 セルフは私の顔を見て私の気持ちを汲み取ってくれたのだろう。私は笑顔でそれに応じた。この大地の妖精は私の見た騎士の中でももっとも騎士らしい。いや、セルフは騎士ではないが、騎士のような振る舞いだ。なにより女性に対してやさしい。私のような肌が浅黒く日焼けして、男と間違われそうな腕の太さをしていても分け隔てはしない。まあ唯一、長く伸びた黒い髪が女性としての私のシンボルだろう。
「しかし、騎士団長のスルホイ様ではなく、騎士隊長のアーシェス様とその副官の私などで派遣されるのは構わないんでしょうか?」
 トロントは恐る恐る言った。確かに他国は筆頭宮廷魔術師殿や王子が参加していると聞く。
「確かに、これが儀礼的なものであるならば、スルホイ様の方が的確だろう。だが、スルホイ様は統一ラオス戦線の最高司令でもある。これを動かしてしまっては、統一ラオスとの戦に支障が出るだろう。すると騎士隊長格の我々が動くしかない」
「はぁ・・・そんな物ですかね?私は体のいい厄介払いにしか思えないんですが」
 トロントが溜息混じりに溢す。
「はっはは!!確かに命令違反数十回、降格数回の騎士隊長に、王に不遜な口を聞くドワーフの戦士だからのぅ!!確かに厄介払いかもしれん。が、それだけ王が我々に期待しているとも言えるぞ。お前たちにしかカイザーは倒せんとな」
 セルフは豪快に笑いながら言い放った。それに私もクスリと笑う。恐らくはトロントの言うとおり厄介払いだろう。それを理解した上でこのようにプラス思考で考えられる、セルフは私のいい友だ。
 ただ、ただの厄介払いだけで私たちの派遣は決定しなかったとも思う。当然、実力はそれなりに加味されたとは思う。足手まといな人間を派遣したとなれば、ソドム王国にの名にも傷がつくからだ。
「楽観的でいいですね、セルフ殿は・・・。私はまたローラ王国のレジェンド王子殿下と会うと思うだけで緊張しますよ」
「アイツか!!確かに礼儀正しい奴じゃの。しかしそれ程堅いことはいわんじゃろ」
「私は王族の方と殆ど面識も無いのです!!ましてや他国の王族など、レジェンド王子殿下しか知らないので緊張しますよ・・・」
 トロントはがっくりとうなだれる。
 しかし物好きな男だ。私の副官になって3年。まじめな騎士隊長の下で働いていれば十分新しき騎士隊長の誕生・・・それだけの実力は充分持っている男だ。しかし私が命令違反をする時は反対はするものの、実行時には忠実に協力してくれる。その手際のよさは見事だ。剣の実力も普段の稽古の時には隠しているようだが、その鋭さははっきり言って副官をしているような男ではない。ドワーフ族でも屈指の戦士であるセルフと真剣に遣り合っても五部には戦えるはずである。そんな男はこの戦の多い国でも数名といない。しかもその実力を隠しているような男は他に知らない。むしろ実力以上に口先で動き回って、出世したい男が多い中で異色と言ってもいい。トロントの真の実力を知っている者は、この国で私が知る限りは王国騎士団長のスルホイ様と近衛騎士団団長のマークス様以外にはいない。その辺りから王の耳に実力が入ったと言うところであろう。
「荷物はこれで終わりか?以外に女なのにすくないのぉ」
「物見遊山に行くわけじゃないんですから、必要な物があれば、王国の金で買えばいいんですよ。セルフ殿も必要な物があれば何なりと言ってください。私が金庫番をしてますんで」
 トロントは私の荷物をささっと担ぎ上げながらセルフに答える。
「ほぅ?じゃあローラ王国についたらエールで先ずは乾杯じゃな。かの国のエールは非常に美味だと聞いている」
「それは、却下します。あくまで必要な物だけです。エールはご自分でお買い上げください」
「なんじゃと?ドワーフにとってエールは血と同じじゃ・・・そもそも・・・」
 セルフとトロントのやり取りを尻目に私は部屋のドアを開けた。この国から出るのははじめてだ。その旅路の一歩がこの一歩だとかみ締めながら踏み出した。
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