2006年03月14日

05.ノアゼールその1

 ここは、ローレシア大陸の北西に位置するミラン・ヤマ王国。精霊のふるさととも呼ばれる美しい地形がそこら中で見られる国だ。それは逆に人間が済むには不向きな土地が拡がる事を意味する。険しい地形が国土の大半を閉め、大きな湖がある。カルーア湖だ。これらは人間に大きな恵みを与えてくれるが、可住地は国土のわずか1割に満たない。しかも実際に街と呼べるものはこの王都ミランと副王都ヤマだけだろう。そもそもこの国の王都は代替わりするごとに遷都される。その王に選出した部族の居住地に近い方が王都ととして選ばれる。そしてミランとヤマは全く同じ構造をしている双子都市でもある。勿論細部は長年使用された民によって代わっているものの大部分はほぼ同じである。副王都には王族の直系の家族が住まうのが習いである。後は集落と呼ぶ程度のものだ。とはいえ、この国は困窮している訳ではない。昔から民は放浪して生きてきた。あくまで集落は仮の宿のようなものだ。街に済む定住するものの方が少数である。それらの集落は150余りが確認されている。それらは部族で構成され、その部族の族長がこの国では貴族であり、政治を司る。つまりこの国は各部族の連合国家である。部族長会議によって全てが決まる。 私はその国で神に仕える僧である。階位は大神官。上位から数えて五位でこの国の僧のまとめ役でもある。ここには多くの精霊使いがいる。故にこの国では異端である。それ故僧の数は少なくまだまだ私自身も修行中である。私の名前はノアゼール。この国の王立教会を任されている。王立教会といっても王国と教会は独立の関係である。そのため王国とは協力関係はあるものの活動は独自に行っている。が・・・総部族長とも言える王に呼び出しを受けたのは異例であった。もっとも王立教会はミランとヤマにだけ存在するので王の目の届く場所で活動が許されているようなものである。
 王の呼び出しは、全く驚くべきものだった。いや、あまりに異例だったので教会の取り潰し、あるいは王室からの援助がなくなるのではないかと思っていたことから考えると教会の存続は免れたが・・・
 事態は思っていた以上に深刻であった。カイザーの反乱・・・。
 伝説の魔導士の存在は私も知っていた。しかし本人を見たこともなく、生きているとは思っても見なかった。
「まさか・・・あの伝説の魔導士が生きているとは・・・」
「ふっ・・・あの男が簡単に死ぬものか・・・」
目の前にいるのはもうミイラのような老体であった。この国の生き字引とも言われる賢者テンリュウ様だ。既に150を越える齢とも噂される。
「テンリュウさまはカイザーをご存知で?」
私は驚いた。
「私が娘時代にな・・・」
 私は少し考え込んだ。テンリュウ様の正確な年齢は不明だ。確かに150とは噂されるものの真実を知っている者は皆無だ。その娘時代っていつだろうと思ったが敢えて口には出さない。いや、流石はこの国の生き字引である。伝説の魔導士を知っているとは。
「しかし、テンリュウよ、あの男と最後に会ったのは140年は前だぞ、貴様はエルフの秘術によって寿命が永らえているにしても、あの男が生きているのは不自然では?」
 口を出したのはフェイルだ。彼の耳は長く上の先端でとがっている。そして肌が雪のように白く、目が炎のように赤い。エルフと呼ばれる種属である。彼らは人間と同じような格好をしているが、人間とは別の種属だ。ローレシア大陸ではこのミラン・ヤマ王国でいくつかの集落が見られる。後は統一ラオスにいると聞くが、同盟国との戦争には部族として参加している様子は確認されていない。傭兵としての参加は噂に聞くことがあるが・・・。そして彼らの違いは外見だけでない。長命であることがもっとも違う。彼らの寿命は400年程度と言われる。彼らは150歳そこそこ。まだエルフとしては成人とようやく認められる年齢だ。彼らは、ミラン・ヤマ王国には参加していないが、友好な隣人として今回参加してくれている。
 もう一人隣にエルフがいる。クロイツェだ。彼らは兄弟だ。
「そうだな・・・人間は普通そんな永くは生きられない。殆ど長老と同じだ・・・。」
「だから伝説の魔導士などと大層な名前で呼ばれているんだろう」
 私は答えた。
「カイザーを屠るにはそこが突きどころじゃ・・・」
 テンンリュウ様はおもむろに言った。私はテンリュウ様の深く刻まれたシワのある顔を覗き込む。
「最大の強みは、裏を返せば最大の弱点じゃからな・・・彼奴は時を固定しているに違いない・・・」
「時を固定?」
 私達は驚いた。
「おいおい・・・ノア坊やとニーツの坊やが驚くのは無理はないが、フェイルとクロイツェが驚くのは感心せんな・・・最近の若いエルフはそんなことも知らないのかい?」
「いや、若いって・・・テンリュウより10程若いだけだが・・・」
 フェイルが文句を言おうとしたが、後の言葉は飲み込んだ。
「・・・私は30も越えているのですが・・・」
 と声を出したのはスルホニーツ。この国の王国騎士団の騎士団長だ。騎士団長としては異例の若さであるが、坊やと言われるほどの歳ではない。私も彼と同じ年齢だが・・・敢えて今は黙る。
「時は、水と同じで高きから低きに流れるものじゃ。目には見えんがな・・・。水は堰き止めれば流れは止まる。時も同じじゃ。時を固定して流れを止めているのじゃ」
「何故判るのですか?いやそんな魔法が存在するのですか?」
 私は僧の身だが古代語魔法も学問として少しは知っている。勿論僧の使う神聖魔法は修めているが・・・。私の知る限りはそんな魔法は聞いた事も無い。
「複合魔法じゃな・・・エルフや精霊使い共の使う精霊魔法と魔術師の使う古代語魔法を合わせた魔法じゃ。彼奴だけが使う魔法じゃな・・・」
「流石、我が国随一の賢者テンリュウ様だ」
 スルホニーツは手放しで褒め称えている。が私はそんなことはしない。この賢者の正体を理解しているつもりだからだ。恐らく・・・私が想像するより早く、テンリュウ様が口を開く。
「かっかか!!昔カイザーに教えてもらったんじゃ」
 一同はがっくりうなだれた。賢者とは言われるもののテンリュウ様は聖人というものではない。ただ今はその性癖がありがたい。カイザーを恐らく一番よく知るものであろう。それ故、この高齢ながら派遣される戦士に選ばれたのであろう。
「さて、悪ふざけはここまでにして、ローラ王国へ向かおうかの・・・あちらの王子様もお待ちかねじゃろうて・・・」
 私は心の中で溜息をつく・・・また悪い性癖が出そうである。そんな悪い予感を抱えつつ、私達は宮廷魔術師の魔法でローラ王国の王都ボンへ飛ぶ。その予感は間違いなく的中すると思いながら・・・。
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