2006年03月07日

04.ロドファクターエルムその1

ここはローレシア大陸の北方に位置するジューダス王国。美しい森林が広がる森と山の国。南の戦場からもっとも遠い国に位置するが、我が国の北に位置する中部大陸と呼ばれるアガメムノン大陸の南部は長きに渡る戦乱の真っ只中で、我が国もいつその戦乱に巻き込まれるか分ったものではない。特に海を隔てて中部大陸から突き出す半島を支配するパトゥーンは邪神が支配すると言われる恐ろしい国である。が、海がそう簡単に彼らを行き来させることは無いだろう。が・・・安心はできない。特に今と言う時では・・・。ローラ王国の西端。我が国の南では伝説の魔人カイザーが同盟4王国に対して反乱を起こした。いや・・・規模から言えばもはや戦争であろう。しかも西方のアフメット郡の領主も不穏な動きがあると聞く。今正に我が国は建国以来の興亡の危機を迎えていると言える。
 私の名はロドファクターエルム。元はローラ王国にある聖地と呼ばれる場所で教育受けた魔術師である。今はこのジューダス王国で筆頭宮廷魔術師を勤めている。 この国でも女である私を宮廷魔術師に迎えることに反対があったそうだ。しかし、私はこの国の為に働き、皆が認めて筆頭宮廷魔術師にまでなることとなった。そんな私を受け入れてくれた国の為に私は最大限を努力をしなければならない。そしてそれが今である。この危機を救えるのは私だけだ。
「すまないな・・・エルムよ・・・」
老齢のジューダス王国国王 テレン・ニード・ジューダス]X世が声をかける。
「いえ、私はこの国の筆頭宮廷魔術師、この国の危機の為に働くのは当然です」
 この国は建国からして波乱に満ちた王国だったと言う。この王国の前身であったローレシア王国から分離する時に即位した王は、王家の血を引く者であったが、当時は既に王族でなく貴族であったという・・・。しかもローレシア王国建国の際に最後まで敵対した古ジューダス王国血を引く者であったとも聞く。もちろんそんなことは伝説にしか過ぎない。古ジューダス王国はもう800年前にローレシア王国初代女王となる、古ローラ王国女王ローラに一騎打ちににて果てている。文献を精査しても現在のところ古ジューダス王国の生き残りが居たという記録は当時のものでは残っていない。が、古ジューダス王国がこの地で確かに存在し、この地を深く愛していたと言う文献は沢山残っている。ローレシア王国が分裂した時、ジューダス王国初代王であるテレンT世が利用したと言うのが、歴史学者や魔術師の見解である。私自身もそう考えている。ただ、ジューダス王国は、その古文書と同じように、あるいはそれ以上にこの地と民を愛していると感じる。だからこそ私はこの美しい王国で仕える事を決めたのだ。
「が、本来はこの国のものでない、そなたにこの王国の命運を掛けなければならない。わし自身が出陣できればどれほど楽なことか・・・」
テレン]X世は今年で齢60の老人である。しかも文学や歴史に精通しているものの武芸は全くと言っていいほどたしなみはない。しかし即位より30年・・・。同盟4王国の中ではもっとも長きに渡り善政をしいている王であることは他の王国でも認めるところである。
もちろん、裏を返せば善政をしなければ人心を得られないという、国の不安定さもある。
森や湖の多い国であるが、産業は林業や木材関係の産業が中心である。そのため経済的にはそれ程豊かな国ではない。王城も同盟4王国ではもっとも質素である。ただ、その石垣と堀の防御力は4王国でもっとも強固だ。何故ならこの国はローレシア王国、それ以前の時代から北からの大陸の脅威にもっとも晒されてきた国だからだ。しかも戦乱期にはローレシア大陸の中南部の国からの脅威にも晒される。ローレシア同盟が結ばれて、カイザーの反乱は建国以来の南から危機である。平和を愛する国王としては心痛める事態なのである。
「いえ、私はこの国の筆頭宮廷魔術師です。この国の者以上にこの国を護る義務があります。この度の派遣は当然のことでありましょう」
私自身真にそう思っているとはいい難い。何故なら私が筆頭宮廷魔術師として国政に意見できるからこそ、この国は保たれている部分もあるからだ。宰相のグレーデンが無能でありかつ強欲であることが問題である。私が筆頭宮廷魔術師に就くことを反対した男だ。まあ強欲であるが、国を潰すほどのことは無いと信じたい。この場合、この国からあの伝説のカイザーに対抗できる人物となると・・・私以外は無理だろう。近衛騎士団団長は確かに強いであろうが、ローラ王国のレジェンド王子、出奔したと言われるその兄王子には数段落ちるだろう。彼にはグレーデンの暴走を諌める役がこの場合よいと言えるだろう。しかも最終的にはカイザー反乱以外の有事の際、的確な助言を王に出来るだろう。他の3国に比べ明らかに人材不足、駒不足は否めない。それ故他の同盟国が3〜5人の人間が来るのだが、我が国は私とジューダス王国原産の馬を提供するのみだ。
「そう言ってくれると私も助かる・・・。エルムよ・・・頼んだぞ」

私は謁見の間を辞すると私室に戻る。するとすぐに近衛騎士団団長サイクルがやってくる。彼は一見ひ弱そうな色白の騎士だが剣の腕はこの国の騎士団ではもっとも剛の者と言える。ただ彼の強さはそちらの方で発揮するより本来は政治で発揮してもらいたいと私はつくづく思う。恐らくこの先彼が何年かは強くなるだろうが、最強の称号にはどんどん引き離されていくに違いないと思える。が、彼ならローレシア大陸でも屈指の有能な政治家にはなれると思う。彼の適正はそちらにあると思うからだ。
「筆頭宮廷魔術師殿、お呼びでしょうか?」
「ロドで構わないぞ・・・。そもそも宰相、宮廷魔術師、近衛騎士団団長、王国騎士団団長は同格と思ってもらってもいいのだから」
私は、ソファに腰掛ける。正直謁見の間に居る時は息が詰まりそうだ。宮廷儀礼は頭で判っているものの、あまり好きではない。
「いえ、ロドファクターエルム様は、この国で王に継ぐ筆頭宮廷魔術師ですから・・・」
本当に礼儀正しい男だ。まあその部分が私が好きになれない部分だ。もう少し粗野な部分が男にあってもいいと思う。
「まあ、いい・・・。私がお前を呼んだのは、私がこの王国を離れている間、お前は近衛騎士団団長としてこの国の行政を管理してもらうためでもある」
「?、それは宰相のグレーデン殿の役割ですが・・・」
「馬鹿か?あのような無能な人間にこの国を任せておけるか?せっかくここまでにしたジューダスだ。あのような無能な男に任せたら潰されるようなものだ」
サイクルも全くだと言うように少し失笑した。
「でも、私は近衛騎士団団長ですので、会議の席に私の席は用意されておりません」
そうだ。この国では軍事の長は王国騎士団であり、近衛騎士団団長はあくまで王族の護衛の長としての地位であり行政とは無縁の存在とされている。故に政治の席には彼の席は用意されていない。
「テレン王には私から、私の代理としてお前を推挙しておいた。あくまで近衛騎士団の団長の地位で出席すのだが、その実は私の代理だ。しっかり私の代理の役目を果せよ」
サイクルはハッと呆けた顔をした。やはり自分の才能を自己評価できない男だ。
「もう一度だけ言うぞ。私の代理として政治の席に出ろ。以上だ。質問がなければ帰れ。私は出陣の用意がある。それとも私の着替えを見て行くか?」
「ご冗談を・・・。一つだけ質問があります。私を推挙された理由はなんでしょうか?」
「お前が将来、私の代わりにこの国を支えてもらわねばならんからだ。私はこの国をいずれ去る時もこよう。その時、この国をテレン王そして次代のサーク王子を支えれるのは、この国でお前しかいないからだ。質問は終わりだな?出て行け」
「馬鹿な?カイザー討伐で命を捨てられるつもりか?」
サイクルは焦って居る様にも見える。本当に分りやすい男だ。政治の場に置くのは非常に危険かも知れないが他に選択枝の無いのが辛い。
「この戦いは帰ってくるつもりだ。だがこの国はいろんな騒乱の種がある。お前はその時までに政治の力をつけろ。わかったな」
サイクルが居るにも関わらず私は儀礼用の正装のローブを脱ぎ始めた。見なくても慌ててサイクルが後を向いている。可愛い奴だ。確かに宮廷の女官に人気なのも理解できる。だが私から見ればこどものようなものだ。
「筆頭宮廷魔術師殿!!まだ話は終わっておりません!!」
サイクルが必死に抗議するが・・・
「何が終わっていない?私はお前に私の願いを伝えた。お前の質問にも答えた。私はいぞぎローラ王国に行かねばならない。お前がぐずぐずしているだけではないか?それとも筆頭宮廷魔術師・・・いや『北の王国の魔女』といい仲になりたいのか?」
 『北の王国の魔女』とは私の異称、いや蔑称である。私がジューダス王国に宮廷魔術師と迎えられてからこの国はそれなりに豊かになった。そのため皆が魔法を使ったと噂している。そんな都合のいい魔法があるなら教えて欲しい。この国をここまでにするのに私はそれなりに努力してきた。
「馬鹿をおしゃらないで下さい!!貴方は我が王国にずっと必要な方です。我々にずっと力を貸してください!!」
「ふっ・・・私の命も永遠ではない。かの伝説の魔導士殿のように不老不死や不老長寿ではない。そしてこの国は騒乱が多い。この度のようなことだけでは済むまい。私はその騒乱に巻き込まれよう。私がもっと大きな騒乱に巻き込まれた時にお前は真にこの国を支えるのだ」
私は旅用の身軽なローブに着替えて、荷物を簡単にまとめていく。大した物は必要ない。ここにある魔法の品もカイザー攻略には殆ど無用だ。どうしても必要ならばまた取りに来ればよい。
「大きな騒乱?このカイザーの反乱以上の?」
「質問の多い男だな・・・。そうだ。その騒乱は必ず近い将来やってくる。根拠は無いが、この私の勘だ。それはどんな騒乱かは私も判らない。しかしカイザーの反乱なぞそれに比べれば小さいものだ。お前は私の留守中にその騒乱に対してジューダス王国の備えをしろ。何も特別な事ではない。これまでどおりこの国を真に強い国にすればいい。民を豊かにすれば、国は強くなる。判ったな。私から答えられるのは以上だ。後は自分で考えろ。もちろんお前が私の代理をしないと言う選択枝もあるぞ」
私は転移(テレポート)呪文を唱えはじめた。
「ロドファクターエルム殿?」
「さらばだ。帰ってきたときのこの国の状態を見て失望させないでくれよ」
私は空間を越えて飛ぶ。そこはローラ王国の王城アークロイアル城だ。
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