2006年03月05日

03.レジェンドその2

私は王都に帰った夜、仲間を呼び出した。いや仲間ではあるが一人は私の剣の師匠でもある。場所は王城の私の私室だ。

かって、まだ私が幼い頃、剣術の稽古で全く兄に歯が立たなかった。私は毎日兄より稽古し、同世代は勿論、大人の正騎士すら負けなかった。しかし、兄だけは違った。変幻自在に剣を操り私に一断ちすら与えなかった。私は兄の真似もしたが、益々動きが固くなるだけだった。そんなとき、一人の戦士が現れた。
「兄に勝ちたいか?」
その戦士は私に問うた。私は答えた。
「勝ちたい。」
その戦士は言った。
「お前の兄の剣は天分の才故、実戦では今後どんなに修練を積もうと勝てんだろうが、試合ならお前の方が上になろう。お前がそれでもいいなら我が剣を教えよう」
その戦士の教えをこうた私は死に物狂いで修練を積んだ。そして私は強くなれる事が出来た。言葉通り、兄から一本も取れる事も出来るようになった。
「まさか、本当に一本を取れるとはな」
その戦士は驚いて、そして笑っていた。その戦士は恐らく、この王国で言えば、兄の次に強いだろう。いや経験という部分も含めれば、兄より強いとも思う。しかし彼は、
「だから、駄目なんだ。俺はお前の兄王子殿下には決して勝てんよ。せめて対峙した相手の技量位は正確に見極める力を付けろよ」
私には兄とその戦士の技量の決定的な差が今でも判らない。それ故まだまだ未熟者だとも言える。
もう一人は、その戦士のもう一人の弟子だ。が剣の扱いは、普通以上だが、剛者と言う程でない。が彼には特殊な能力がある。暗殺である。もともとローレシア大陸に網の目のように張り巡らされる『組織』の人間だったらしい。今は名前も姿もかえ、『組織』から逃げている。もっとも顔も姿も変わっているので『組織』も判らないだろうが…
戦士の名は、ラウル。が赤騎士の名前の方が有名だろう。暗殺者の名前はサード。今は青騎士と呼ばれる。最も。本当の名前は私もラウルも知らない。

二人は正式な騎士ではない。が、去年、統一ラオスとの戦争に私と共に参加してくれ、余りある戦果を残してくれた。その功績に対して我が父王が、彼らに騎士待遇を与えたのだ。もちろん領土や禄を与えた訳ではない。あくまで称号である。あくまで彼等は独立した戦士だ。そして着ていた鎧の色から赤、青と呼称される。私は黒い鎧を着ていたので黒騎士と呼ばれる。

そして、三人で『三騎士』とまで呼ばれる。私自身はそんな大層な名前は要らないのだが。赤騎士は大変喜んでいる。別名で呼ばれる事は強さや武勇の証だからだ。
「どうした?悩み事でもあるのか?このオヤジが聞いてやるぞ」
ラウルがいつもの調子で絡んで来る。銘にこだわる割に、気さくさは以前と決して変わらない。彼はいつもの安い酒場でサードと飲んでいた。彼らは正式な騎士ではないので、私が呼び出さねば、戦場に来る事はない。普段は冒険者と呼ばれる、町のなんでも屋だ。何度か正式な騎士になるように奨めたが、この自由な暮らしを捨てる気はないと断られた。サードにしても、騎士になれば流石に目立ち過ぎ、リスクが上がるからと固持されている。
「私が、二人に依頼してもいいですよね?」
私は恐る恐る聞く。
「ハッハハハ、また戦争か?この三騎士が揃えば正に無敵だからな!ガッハハハ!」
「ラウル、話しは最後迄聞いた方がいいですよ、レジェは一応、王族。どんな無理難題を言われるか…」
サードは慎重な性格でラウルのブレーキ役を自認している。そして三騎士の参謀役でもある。
「大丈夫だって!俺達三人で3000の軍団を追い返したじゃねーか!正に一騎当千だ!」
「私とレジェで大半の兵隊を引き付けて、その間に敵の将軍を倒しただけだったはずですが…」
先の騎士称号叙勲の戦果の時の話しだ。確かに実際苦労したのは、私とサードだ。ラウルは上手く敵の鎧と同じ色だったので上手く紛れこんだだけである。ただ、敵の将軍も手練だったので、確実を帰すため、ラウルが相手をしたのだ。
「が、上手くいったろ。戦いは確実に相手を倒す必要がある。お前らなら最悪あの中から充分に逃げ出せたはずだ」
「貴方ならもっと確実に逃げ出せるはずです」
サードの言葉にラウルは益々豪快に笑った。
「で、今度は何処の戦場だ?砂漠か湿原か?山か?」「街道ですね」
「ん?するとかなりの大群だな?じゃあ俺達だけじゃすまんな」
「そうですね。相手は伝説にも出てくる魔法使いです」
ラウルの豪快な笑顔が複雑な顔に変わって、後ろを向いて逃げ出そうとした。が、そのシャツをしっかりサードが握って離さない。
「ラ・ウ・ル!三騎士の頭が話だけで逃げない!」
それでもラウルはジタバタもがいている。
「バカヤロー!魔法使いなんざ、戦士が相手する相手じゃね〜!あいつらは、剣の届かない所から攻撃してくるんだぞ!勝てない相手とは戦わない!それが俺の強さの秘密だ!」
「そんな情けない泣き言は聞きたくありません!とにかく座りなさい!」
サードは無理矢理ラウルを席につける。本当にこの二人の息はピッタリだ、私とサードは19で同い年。一方ラウルは今年で40になる。我が父王よりは遥かに若いが、親と子程離れている。実際、ラウルは私とサードを実の子のように接してくれた。特に親が判らないサードとはそれ以上の絆すら感じる。しかし、今はどちらが子供か判らない。
「で…誰が相手なのです?まさかとは思いますが…伝説と言うには、心当たりは一人しかいないのですが…」
「そうだよ。齢、400を超えると言われる魔導師カイザーだ」
今の今までサードにシャツを掴まれジタバタしていたラウルの動きがピッタリと止まった。
「おい…レジェ…相手が何者か知って言ってるのか?あれは本気でやばい。戦士だけで倒せる相手じゃねぇ…」
ラウルが真顔で、私に言う。これが普通の魔法使いなら、どんなに強力な魔法を使おうと、剣の届く距離迄近づけば、戦士が勝つ可能性も出てくる。しかし相手は不老長寿を地で行く魔法使いだ。例え必殺の距離で剣を繰り出しても倒せる可能性はほぼ0だろう。しかもその距離に達する事は永遠に来ないだろう。
「まあ…そうなんですが…。今回は同盟4王国の国王会議での決定ですし…、それに他の国からも専門家が来るそうですから」
ラウルは少し考え込む。いや、そんな振りをしているに違いない。だがサードも私も何も言わない。ラウルがそんなポーズをするのは間違いなく、ひらめきを待っているだけだ。実はこれがラウルが強い理由の一つだ。ラウルの勘は鋭い。一見無謀とも思える行動が、ずばり当たり、今でもも何度も窮地を脱している。それを知っているから私もサードも何も言わない。ただ、それは街角の占いのようなもので根拠は薄い。
「…、行くのかレジェは?」
ラウルが私に聞く。
「えぇ…。私はこの王国の王子ですし…行かないと同盟破棄として、他の同盟国にこの王国は、滅ぼされるか、隷属ですから…」
ラウルはまた口を閉ざした。この時間が本気で苛々する。下手をすると寝てしまう時すらあるからだ。それでも待つしかない。三騎士の決定はラウルしか下せないのが暗黙の了解事項だ。
「行くか?」
ラウルがポツリと言った。
「本気ですか!?」
サードは驚いた。それはそうだろう。ある意味自殺行為だ。
「正直、迷ってるんだが、レジェを一人で行かせたら、それこそ死に行かせるようなもんだ。それに今回は他の国の専門家も居るんだろ?そん中に頭のいい奴もいてカイザーを倒せる方法を知ってる奴も居るかも知れねぇ。だったらそれを聞いてからでも遅くねぇ」
サードがクスリと笑った。
「そして、方法がなかったり、とても現実不可能な方法だったら折角、頂いたこの王国の騎士称号を捨てて逃げる気ですね?」
「当たり前だ!」
ラウルは自信満々に言った。
「威張らないで下さい!私達はいいですよ。どこでも暮らせます。私なんか既に逃亡の身です。でもレジェはこの国の王子なんだからそんな事できる訳ないでしょ!」
サードは本気で怒り心頭と言った様子だ。
「まあ、確かにそうなんですが、正直、軍団も送れない、倒す手もないなら、国ごと逃げる事も考えるしかないって思っているんです。その手段を捜す為にも来て頂けると有り難いんですよ」
サードがあんぐりした顔を見せてこちらを見ている。それ程意外な答えだったらしい。
「まさか、真面目なレジェからそんな言葉を聞くとは思わなかった…」
「私もラウルの弟子ですからね…。どうしても勝てない相手と命のやりとりするのは問題だと…。ただ生きていればなんとかなるでしょう。」
それを聞いていたラウルが私の胸倉を掴んだ。
「やっぱり、お前は俺の弟子としては半人前だな…」
「ラウル!」
サードは驚いて止めようとする。
「サード、お前もレジェの言葉の意味が判らなかったのか?そしたら、お前も半人前だ!」
「えっ?」
「こいつは、自分の事を言ったんじゃね!自分が犠牲になっても他の人間は助けたいだと!」
その通りだ。ラウルに嘘は通用しない。だから嘘に為らないように慎重に言葉を選んだつもりだった。
「やっぱり、半人前には師匠がついて行って、きっちり教育する義務があるな…」
「…、でも王子である以上レジェの想いも当然…」
サードが抗議しようとすると
「基本は国も人も同じだ!特にこいつは王位継承権1位。大将がやられて何が勝てるんだよ!」
「大将がやられたから滅びるような国などまともな国じゃないですがね」
サードはぼそっと呟くがラウルは聞いてない。
「喧嘩をやるからには、絶対に勝て!何度負けても構わんが、最後に勝てばいいんだ!」
それから3人に暫く沈黙が流れる。
「まぁ・・・なんだ・・・取り敢えず、行くか・・・。レジェも言い出したら聞かない性格だし・・・この単純馬鹿をまともな人間にしてやるのも師匠としての俺の役目だし・・・」
「ラウルみたいにゆるゆるになりすぎても、王族としてはどうかと思いますが・・・」
サードの的確な突っ込みに私は思わず吹き出してしまった。
「確かに、ラウルみたいになったら、王族としては問題ありすぎでしょうね・・・」
「それが、師匠に言う言葉か?お前は堅すぎるんだよ。だから兄上殿下に勝てない。」
「でも、あの人はラウル以上にゆるゆるで、遂には城を飛び出てしまったので、不適切な例です」
サードは合いも変わらず的確な突込みだ。

その夜話し合った結果、三騎士はまず各王国から派遣される専門家と合流する。その後伝説の魔導士を倒す方法を考えると言う方向で一致した。そして私の堅すぎる性格をこの旅でなんとか強制するという方針も確認された・・・。
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