2006年03月05日

02.釈迦

ここはローラ王国の東にある山脈の頂きにある寺院。ここはかって、このローレシア大陸を治めていた昔から王国から独立した存在であり、ローレシア王国を支えてきた。それはローレシア王国が統一ラオスが、反乱を起こし、ローレシア王国が同盟4王国に分裂しても変わらない。我々の寺院は各王国に多種多様な人材を派遣し、同盟4王国のかすがいとして働く。それ故、人々はこの寺院を聖地として呼ぶ。寺院と言うものの、神を信仰しているだけの場所で無いのが、国に所属する寺院とは大きく違う。魔術を研究するもの、剣技の研鑽するもの、様々な知識を吸収するもの…。そしてその人材を、同盟4王国に派遣するからこそ、同盟4王国からの独立を認められている。
私の名前は釈迦。聖字で名を受けているのは、神に使える僧侶の明かしでもある。まだ私は修業中の身で神官職は与えられていない。が、私自身は階位にこだわった事はない。神に使え、修業出来るだけで充分だ。

昼食が終わった頃、私はこの寺院の高位に当たる大僧正から呼び出しを受ける。その時は、また碁の相手程度に考えていた。しかし、大僧正の部屋にはいつもある大きな碁盤はなく、変わりに大僧正以下、この寺院の管理人である、小僧正、大神官ら主だった顔が揃っていた。そしてその尊顔をほとんど見たことすらない最高位の大アジャリまでその席にいた。私は部屋に入った途端に反射的に平伏した。階位には確かに興味はない。しかし、敬意とは別の物だ。特に私のような下位の僧にとっては現存する至高の存在である。
「釈迦よ、面をあげよ」
大アジャリは静かな声で私に語りかけた。大アジャリはミスの向こうに座していらっしゃるが私は顔をなかなか上げることが出来なかった。なんとか顔を上げたものの直視する事は出来ない。
「釈迦よ、聖地に生まれて今年で何年になる?」
「ハッ、今年で15となります」
大アジャリは少し微笑んだように感じた。ミスの向こうで顔を見る事すら出来ないが…。
「お前に頼みがある。初めてだろうかと思うが、私の代理として、外の世界を見て来てほしい」
私はいろいろと考えた。聖地で生まれ、聖地で育った私は外の世界を知らない。いや書物や寺院に訪れる者から聞く事は有っても、実際に見たことは無い。しかし、それだけで大アジャリからそんな事を言われるだろうか?
「何かのお役目ですね」
私は失礼を承知で大アジャリに聞き返した。
「流石、大僧正の言う通り、聡明な子だね…。昨晩、同盟4王国の国王様達から使者が参って、困り事があるから助けてほしいらしい。私はこのとおり高齢で役に立つ事は出来ないが、幸い若く立派な弟子がおる…」
「そんな…まだまだ未熟者です」
そうだ。私は未熟者だ。大アジャリから数えて18番目の階位。一番下の階位だ。それは修業している以上仕方がない。
「お前は、私の代理として最、的確な人間だよ。お前は今日、この時を持って寺院直属の聖として、王様達の手伝いをして来ておくれ」
それは衝撃的な言葉だった。聖と言えば階位を超越し、大アジャリ直属の僧であり、その言葉は大アジャリの物として取られる。正に、大アジャリが言った通りの代理である。最下位の僧に任じられる役割ではない。
「そしてお前は本日を持って正神官位になる。」
私を呼んだ大僧正が宣言する。正神官位と言えば正5位(下から9番目)だ。かってそんな昇格した僧など聞いた事もない。
「まあ、驚いているだろうが、それでも聖としては低すぎるくらいなのだ。だがお前の年齢や実力等を充分考慮した結果なのだ」
まだ僧として正式に修業を始め3年の私には過分過ぎる階位だ。
「しかし、今後お前の言葉は聖地の決定だ。それは大アジャリも逆らえ無い。それは大アジャリの決定でもあるからだ」
つまり、聖地を出れば私は釈迦個人であるが、その行動、言動全ては聖地の物となる訳である。大アジャリや高位の僧は私に何をさせようと言うのだろうか?
「大アジャリ、私は山を降りて何をすればよいのでしょうか?」
大アジャリはミスを上げさせ、壇をおりてきた。それまで高齢の男性だと信じていた大アジャリは20〜30代の美しい女性であった。いや美しい等では形容出来ない位の…
「釈迦よ、それはお前自身が見て決めるのです。私の代わりとして、世の中を見て、全てを自分で決めるのです。」
声も先程のシワ枯れた声ではない。
ふと周囲は平伏していた。私も慌て平伏しようとしたが、大アジャリの雪のように白い手が私の肩に触れその行動を止める。
「皆、貴方に礼しているのです。確かに貴方は階位は正五位の正神官ですが、今この瞬間より、貴方は私なのですから…」
そう言って大アジャリはニッコリと微笑む。その笑顔は、かってみた大地母神の絵のようだった。
「まずはローラ王国へ向かいなさい。そこからは貴方自身で決めるのです。共は一切付けませんが、いつでも私達は共にあります。」
戸惑うと言うレベルの話しではない。最下位のそれでもが正神官だと言うだけでも驚きだ。それが聖だ、大アジャリと同じと言われ、いきなり生まれて育った場所を追い出されるようなものだ。何がなんだか判らない。
「貴方が迷うのは当然です。が、今は全てを貴方に委ねる以外ないのです……」大アジャリの声が震えている。
「ごめんなさい」
大アジャリの細い腕が私の肩に回り、私の耳元で私にだけに聞こえるように小さな声で、大アジャリが呟くように囁く。
「大アジャリの命ならそれは私に取っては、それも修業です。ただいまより、この釈迦、聖としてローラ王国に参ります」
正直、私に今どのような状況なのか判らない。しかし大アジャリや他の高位の僧には考えが会っての事なのだろう。私は大アジャリの言葉に従い、次の日ローラ王国の王都を目指し、聖地を後にした。何が待って居るのか私は知らないまま。
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